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2010年01月31日

『シムーン』は百合かと思ったら正調ジュブナイルの傑作だった

個人的に「ゼロ年代で心に残ったアニメ」で『コメットさん』と並ぶ
双璧になることが決定したようです。
オタから脱落する前に、こういうのをあと1本ぐらい観てみたいものです。

あと2006年当時リアルタイムで観なくてほんとすみません。
「あざとすぎる百合だ」と回避してました。ほんとすみません。

それでは、全26話の感想をできるだけ冷静に書きます。
今更ですけどネタバレはありません。


1.テーマ前面出し

じつは、テーマ優先主義は好きではありません。
なぜなら失敗が多いからです。特にアマチュアの作者に顕著ですが、
テーマを語ろうとしてキャラに不自然な言動をさせたり、
無理矢理な話の展開をしがちだからです。

結果、血の通ったキャラクター、作品が出来ません。
証券会社のCMとかで、小さな孫が祖父に「これからは金利変動型投資信託の時代だね!!」とか
言っちゃいます。糞が!!!!と思います。

お話を作り込んでいった結果、隠しきれなかった思想がでてきちゃいました。
というのが一番良いのではないかと思います。

またアマチュア作品の場合、
語りたい!という原動力として、テーマ性は良い動機たりえますが
商業作品だと、テーマなんぞは一銭もゼニを生み出しません。
上記の害を承知でそれでもやるとしたら、ぶっちゃけオナヌィーでしょう。

シムーンは1,2話でアホみたいに明確なテーマ性を打ち出してきました。
非常に驚きました。
そして物語の定石をブン投げてでも、最終話までそれを貫き通したのは見事です。


2.巧みな設定

作品世界に置かれたガジェットが作品に緊張感を与えています。
シムーンの世界では、人は全て女性として生まれ、17歳になると「泉」へ行き
自らの意志で性別を選択、固定化します。

第1に、性の固定化は、少女(的な中性の人間)にとって
ある種のジェンダー・クライシス(性のありようの危機)なわけです。

第2に、純潔性が無くなるのか、性の固定化をすると
神の乗機ことシムーンを操縦できなくなります。
これはシムーンの操縦を生き甲斐とする少女達にとってアイデンティティの喪失を意味します。

第3に、隣国との戦争により主人公達は、
本来は祭祀用である飛行機械シムーンを兵器として使うことを強要されます。
それが嫌な場合、シムーンを降りて「泉」へ行くという選択が課されています。

何処にも退けない三重縛り。なんというサド設定。うまいと思います。
血なまぐさい描写は極力避けられているようですが、
戦場に置かれた少女達の重苦しい空気が良く出ていると思います。


3.ドブ板すぎるキャラ描写

キャラクターの抱く葛藤を執拗に描くことによって
視聴者が、キャラクターに寄り添っているような感覚を得ることができます。
彼女らのしてしまう恥ずかしい失敗も、誤った選択もあまさず拾っています。

外部から降ってわいてくる、幸運もほとんど無いです。
「だって、天才だから」的な主人公補正もほとんど無いです。
主人公達の決断によって、全ての物事が展開するのは
作劇的にけっこう面倒かつ意欲的かと思います。

まぁ副作用として、
メンバー間の争いが絶えない辛気くさーい雰囲気になっていますが
(主人公チームがこんなに仲の悪いアニメ見たこと無い)
「肥大する自我に苦しむ少女達」が余すことなく描写されていると思います。


4.何故かどんどん良くなる作画

予算かスケジュールの関係か、
スタッフがヒートアップしてきたのか(多分こっち)
あとになればなるほど作画が豪華に。
OP映像よりも良いカットがバンバン出てきます。
ハマっている視聴者にとっては大変お得です。


まとめ

思春期に、バクハツしそうな自意識を抱えた少女が
時としてそういう関係性を形づくるという意味で、
本作での百合要素は副次的な産物となっています。

本質は、彼女らが永遠の少女としてのモラトリアムを終えて
大人の世界に旅立っていくという(12人それぞれを描く!)
正調ジュブナイルとも言うべき物語です。

1話,2話において
作品の方向性が余すところ無く描かれますので、
視聴の継続はそこで決めると良いでしょう。
これは良いと思ったら、その期待は裏切られずむしろ加速して
エンディングを迎えられると思います。
なお前半にはちょっとダレる箇所があります。

逆に、昔の少女漫画というかタカラヅカ的な雰囲気は、
現状のオタク業界における
「おにゃのこ達がキャッキャウフフ」とかなりずれていますので
感性が全く合わないという人も居ると思います。
どちらにしろ、人を選ぶ作品と言えるでしょう。


それにしても、テレビアニメも捨てたもんじゃないですね。
今後もこのような、
作品に対しスタッフが真摯に向き合ったものが制作されることを望みます。
オタっぽいもの、真面目なもの、どういったものでも。
あ、でも出来ればオリジナルで。


最後に

アーエルいいよアーエル。バカだけど凛々しい。むはー
立場的に応援したくなるのは、使えないオスカルことパライエッタ。

リンク集

シムーン公式サイト
インタビュー、コメントで重大なネタバレ注意。

蔵出シムーン 監督+作画監督編
デッドリンクで公式メニューからは入れないです。ネタバレ注意。
スタッフのモチベーションが高かったことが伺えます。

『シムーン』、思春期のレクイエム(1)

私がとても好きなSF作家、秋山完氏による激賞文。
こんな長文かましてるなら新作・・・ゴホンゴホン。お待ちしています。
核心のネタバレ注意。

2009年12月10日

親父さん空気読め。(マイマイ新子2回目)

前回の記事で批判点を挙げましたが、2回目を観て新たな知見を得ましたので書きます。

念のため申しますが、難癖をつけたいのではなく
本気で応援したいので欠点もちゃんと書きたいのです。
また口コミで広げようという動きもあるなかでは
欠点を隠してプッシュするというのは
おすすめされる側にとってはうさんくさいし、反感を得る気がします。

以下核心では無いですがほんのりネタバレ。

さて。自分の考える本作最大の欠点を述べましょう。
新子の親父さんです。
登場のタイミング悪すぎですよ!エピローグまで我慢してて下さい。

前回指摘したテーマ的結論は、
実は親父さん登場直前のシーンで語られていました。
(とても分かりづらい描き方だと思いますがその点は割愛)
しかし親父さんの登場と朗らかな挿入歌のせいで、
記憶からさっぱり抜け落ちてしまったようです。

問題なのは、あの瞬間「子供の世界」から
「家族の物語」へ視点がシフトしてしまうことです。
これはモロ大人からの視点です。結構ガッカリです。
某なんとか合戦ぽこぽんのラストの
「おいおいこの物語は監督の愚痴だったのかよ」と感じが似ています。

ジイさんをサービスシーンまでつけてあれだけプッシュしたし
貴伊子の親父さんをあれだけ空気化したのだから
新子親父はスルーして良かったんじゃないかなぁと思います。
キャラは好きなんですけどね。

さらにクライマックスのシークエンスについて付け足しますと
ストーリーラインが

・平安
・昭和
・貴伊子視点
・新子+タツヨシ視点

に重層化して一気に難解になりますので
ただでさえ観客の頭はショート寸前と思われます。
そこに「家族っていいよね!!!!!!」みたいな
分かり易いモチーフを持ってくると
ことごとくそちらに誘導されてしまうんじゃないでしょうか。
自分もそうでした。
でもそれが描きたかった映画だとは思えないのです。

ーーーーー
フォローついでに。
ダム完成のあたりまでの出来は文句のつけようがないです。
見直して仰天したのは、諾子らの舟が防府に到着したのが
映画が始まってすぐだったこと。
あれだけトリッキーな構成を一瞬で説明出来ているのは素晴らしいです。

その後じんわりじわじわと諾子を小出しにしていく構成は
良いですねー。時間軸での二重構造が成立できているのは
計算された構成によるところが大きいのではないでしょうか。


萌え視点の感想があってもいいじゃないかコーナー。
貴伊子が母の真似をするシーンは
サプライズ的なカット割りもあって何度もキュンとなります。
キモイ言うな。事実だったんで書きます。

でも、色々カッ飛んでいたおっ母さん(昭和20年代にウェディングドレス)と
貴伊子が母をどう捉えているかが分かる良いシーンですね。
別に私は家族解体主義者ではないのです。ハイ。

参考リンク:
「マイマイ新子と千年の魔法」個人サイト感想リンク集~なんでぼくは泣いているのか教えてくれ~ - たまごまごごはん

精力的な活動が素敵です。

2009年11月27日

『マイマイ新子と千年の魔法』は凡作か傑作のどちらか

減点方式の採点だと佳作~良作の映画で、
加点方式の採点だと傑作の映画である、といった感想です。

エピソードの内容などネタバレはありません。
(後述のyoutube映像にある内容については述べます)

「マイマイ新子と千年の魔法」公式サイト

では減点方式から。
クライマックスのシークエンスが、映画のタイトルとちょっとずれてしまい
結局そのまま終わるのがカタルシスに欠けました。

一般の観客は、後述するテーマ性を
「頼まなくても勝手に考えて補完、納得してくれる」存在ではなく
主人公たちの行動言動を銀幕上で追跡しているわけですから
これは肩すかしを食らうのでは無いでしょうか。

別に、ああいう展開で水を差された!けしからん!というわけではなく、
クライマックスにおいて、それぞれ別の思想で動いていた二人が
最終的に合流(テーマ的な意味で)しなかったのは「アレ?」と思いました。
(あーネタバレすれば説明しやすい)

今までと違う思想で動いた新子はどう変わったん?
そして貴伊子は新子に何を伝えたのか?

がスルー気味というのは、自分的にはちょっと不満です。

丁寧に丁寧に積み上げてきたパズルの完成形を見せられる前に
幕が下りてしまった感じです。
「あとはみんなで考えてね!(はぁと)」という意図なのかもしれませんが
(そしておそらく皆正解にたどり着けますが)
個人的には映画の中でやってほしかったです。
ただ、もう片方の二人組に関してはちゃんとオチがついていて
嬉しかったですね。

以上減点方式ですが、まぁこれは、スピルバーグ系映画で育った私の
視野の狭い映画鑑賞方法なのかもしれません。
でも一般の人はこんな感じじゃないかなーと思います。

(なお上記の批判については、他者の感想を読んでいたところ
「セリフにのぼらないなど分かりにくいが
実は描写されていたのではないか?」と思い始めました。
そういう意味では監督のこの記事は納得がいきます。
すでに映画を見た方にお願いがあります。 - メイキング・オブ・マイマイ新子

でも自分はファーストインプレッションを大事にしたいので
あえて書きました。)

(12/10追記:2回目観ましたのでこの論点は別記事でフォローしました。)

 
さて真面目くさった話はこれぐらいだ!

細部は神!
エロい!
監督の持つフェティッシュで満ちあふれているぜ!!

肩の高さから人物の後頭部を捉えたショットが良いです。
観客から表情が伺えないのがエロいです(プロモの中にもありますね)。
足元だけを捉えたシーンが多用されていますがこれまたエロい。
足フェチかよ!
そしてそれが物語的に重要だったりするのがまた良いです。

これを見てなんかムズムズしちゃった人は劇場に急げ!(速攻終わりそうなので)
まぁ私は公式トップのキービジュアル見ただけで劇場行こうと思いましたけどね!
監督自ら言ってるのでどうどうと書きますが、良い百合モノだと思います。
極めて正統的なガール・ミーツ・ガールです。

若年向けアニメの最近の潮流として、
ソフトレズ的行為をとにかく繰り返す作品が多いような気がします。
これは、
視聴者への釣り針になる描写を細切れに積み重ねる手法と理解できます。
大量のコンテンツを次々とザッピングしていく現代では
そういった手法は分からないでもないですが(実際に支持されている)、
釣り針が見え見えなのと、細切れでは大きなうねりが起こらないので
個人的にはイマイチ乗れません。

その点本作はベテランのワザを見せつけてくれます。
表面的でない内面における心の交歓を描くのが、百合の本道である。
割とマジに言ってます。

あと陰影マニア的には、夜のシーンがたいへん美しいと感じました。
「暗い」という表現はとても難しいと思いますが
懐中電灯という小道具を用いたのが白眉だと思います。
エフェクトや合成処理も含め
デジタル時代ならではの素晴らしい表現でした。
監督は昔からCGをさりげなく使うのが上手いと思います。

真面目な流れに戻りますが、
昭和の時代をいたずらに美化しない姿勢も好印象でした。
上のシーンには「チョコレートは贅沢品だった」という意味合いがありますが
そこから別に飽食の時代を批判したりしません。
ついでに千年前の社会を批判したりもしません。
ですので私のような若輩者でも居心地良く見られます。

千年ぶんを描くわけですから特定の時代に肩入れしないのは正解ですが
良く踏みとどまってくれたという感じです。
誰とは言いませんが、世代がもっと上の監督が作ったら
ミラクル説教タイムがあったことでしょう。


最後に、
千年分の時間を「土地」というキーワードでまとめあげ
超常現象要素無しで
違和感なく一本のフィルムに落とし込んだのはすごいです。
普通なら企画段階で蹴られますよ。完成形が全く想像できませんもの。
自分も積極的に吸収、見習わなくてはならないと思いました。

プロモを見て「??なんだこれは」と思った方は
是非劇場に足を運んでください。マジで興業的にやばそうなので。

 

超最後に、鉄オタ視点から(読まなくていいです)。
まさかアニメの中で、
工場引き込み線のディーゼル機関車(しかもロッド式)を見られるとは。いやーん凸型車両素敵。
貨車の台車(足回り)もちゃんと昔風だし。
蒸気機関車はさすがに誰でもちゃんと調べますが、
DLまでリサーチしていたとは驚きです。
見習おう。


『マイマイ新子と千年の魔法』上映存続を! - 署名活動するなら『署名TV』
よかったらお願いします。
(企画者に対しても)匿名可、メールアドレスがあればOK。
モバイル用:http://www.shomei.tv/mobile/project.php?pid=1385

2009年08月07日

「サマーウォーズ」は完璧すぎて物足りない

ご無沙汰しております。早速観てきました。
要旨:
1.映画賞総なめか。脚本すげぇ
2.次回は、ブレイクスルーが無いと飽きられそう

予告編程度しかネタバレは無いと思います。

 

映画「サマーウォーズ」公式サイト

演出と脚本の完成度は大したもんです。
田舎とバーチャル空間という、水と油の要素を
恐ろしく巧みにまとめ上げています。

あと、監督のご結婚と、「家族」がテーマと聞いていたので
「あーあ細田監督丸くなったかぁ、毒の消えたフィルムかも知れないなぁ」と
思っていましたが、何のなんの、
人間関係に不安定な要素を織り込むことによって
そこから順序立てて「家族って素晴らしい!」を説明しています。

「家族って素晴らしい!」を「アタリマエダロ」として
過程を描かずに結論づけてしまうと、
同じイデオロギーを持っている人、
日頃からそういう事を実感できている人は
自分の立ち位置を再確認できて大満足なんでしょうが、
そうでない人には「ハァ?」となります。

いや私のやっかみじゃないですよ、
例えば反抗したい盛りの十代の人はそうではないでしょうか。
教育目的で作られたフィルム、
または完璧な善意で作られたフィルムの持つ
落とし穴に嵌っていない事に「さすが細田」と思いました。

さて後半では悪い点を。

完璧すぎて、スキマからはみ出てくるような情動があまり伝わってきませんでした。
あ、鑑賞中はドキドキしましたが。
ハヤオ爺のフィルムのほうが、脚本が滅茶苦茶でも情念が伝わってくるのは
どういうこっちゃ。
知的好奇心は物凄いレベルで満たされるのですが、
後を引くような感覚は無かったです。

なんというか、電子音楽と同じで
寸分の狂いのない完璧なリズム故に味気ないというか。
表情芝居などにギャグマンガチックな作画が散りばめられていて
「アナログ的ゆらぎ」を表現していたような気はしましたが
逆にそれに違和感を感じたほどです。

勝手な提案ですが、楽団員が優秀すぎて
監督の指示に寸分違わない演奏をしてしまうので
次回作には素人っぽい人か、
またはへそまがりの人を混ぜるのが良い気がします。

最後に、「時かけ」以降の「細田ブーム」に関して
個人的見解に過ぎませんが一言述べたいと思います。

特にアニメオタク層に言えるのですが、彼らは
「アニメの演出=見た目、スタイル」と思っていたフシがあります。
ぶっちゃけて言えば、
『ヤマカンや新房の演出はすごい!』であります。
(なお彼らの「スタイル」に関しては私は否定しません。)

そんな折りに、細田監督が、伝統的なモンタージュ技法などの
演出をハイレベルで操りながらやって来た。
それを観たアニオタさんがビックリして高評価に繋がった、
と私は考えています。

ですので、細田演出に「慣れてしまった」観客が
今後何を求めるか、と考えてしまいます。
「オレはこれが好きなんだぁ!」という
作り手のパッションではないでしょうか。

海外進出を狙っているのか、
お行儀を良くしたような描写もいくつかあったので
次回作では、もっと弾けて欲しいなぁと思います。
もっとこう、むっつりスケベな感じが欲しいのです。なんちゅうか。

過去に書いた記事
細田守『時をかける少女』演出ピークのズレ(2006年08月06日)
『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』にみる細田守のカメラワーク(2005年10月21日)

あーあと、私が前から応援してるモノをネタにしてくれて
ちょっと嬉しかったです。
嘘が多かったり取材してなさそうな感じでも、許せます。
(でも国際情勢を鑑みて差し替えました、という理由だったら嫌だなぁ)

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